「みことの一手!」観戦記

今回は、4月19日発売の「まんがタイムきららMAX」2014年6月号に掲載されている「みことの一手!」第5話(宇城はやひろ・作)について感想を書くこととする。
前回の日記のように、今回も「MS IGLOO」のパロディを交えて書き連ねるつもりだった。しかし読むうちに、「これは真面目に書かなければいけない」と思うようになった。高校の囲碁部員同士の対局をギャグを交えて描いている作品から、私はとあるプロ棋士の対局を想起したからである――。
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2013年に、「第2回 電王戦」が開催された。プロ棋士とソフトとが対局した将棋の団体戦で、人間側の1勝3敗1引き分けという結果だった。
先崎学九段はコンピュータが指すことについて、こう述べている。

 人間の眼から見るとコンピュータは語弊を恐れずにいうと嫌な奴である。なにせ疲れないし、詰みがあれば絶対に間違えないし、玉が詰まされることに対するプレッシャーもない、最後の点は特に重要だ。〔中略〕うらやましいし、憎らしい。あの気持を味あわなくていいなんて、ずるいよ。
(『第2回 電王戦のすべて』(日本将棋連盟/2013年)102〜103ページ)

果たしてコンピュータ側は文字通り「機械的に」指し、人間相手に勝ち越した。
しかし対照的に、人間側が底力を見せた将棋があった。第4局(塚田泰明九段 vs. Puellaα)である。本局は中盤でコンピュータ側が大いに優勢となったが、塚田九段が粘りに粘って引き分け(持将棋)に持ち込んだのである。

――終局直後にこみ上げたものがあったかと思いますが、その理由をお聞かせください。
塚田 そうですね、チーム戦ですからね、だからやっぱり……
 チーム戦ですので、自分が負けたらチームが終わってしまいますから。最低でも引き分けというのが目標だったので。
(第4局、終局後の記者会見から。引用部分は、同上168ページ)

人間には感情がある。プレッシャーに襲われる(そして敗れる)場合もあれば、強い動機によって必敗の一局を引き分け(場合によっては逆転)に持ち込む場合もある。将棋の級位すらない私が書くのは大変おこがましいのだが、塚田九段の将棋は人間の将棋そのものだったのではないかと思う。
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「みことの一手!」の主人公・みことは同級生・蛍との対局に臨んだ。棋力は劣り形勢も悪いとあって、敢え無く負けるのかと思いきや……。これ以上はネタバレになるので、詳しくはぜひ買って読んでいただきたい。
一つ言いたいのは「みことの碁は"人間の碁"そのものである」ということ。機会があれば、この点も含めてもうちょっと書き連ねてみたい。