「殺し屋」

 加藤〔正夫名誉王座、故人〕とタイトル戦で数々の激闘を繰り広げた趙治勲〔名誉名人〕は、そんな「殺し屋加藤」が好きだった。
 「プロの常識では、石とは殺しにいくようなものではありません。ですから、それまで大石を直接取りにいくという碁はありませんでした。攻めはあくまでも効果として用いながら、最終的に勝ちにもっていくわけです。名人、上手の域に達すれば、なおさらのことです。ところが、加藤さんは、攻めて、そのまま殺してしまう。攻めにきているな、と思っていたら、いつの間にか実は殺しに来ているのです。その殺し方も、名刀でバッサリではなく、大きな丸太の棒で殴り倒すような迫力がありました。〔略〕」*1

友野「大石を取るのって、なかなか上手くいかないんだよね」
山西「実力が近い者同士で打つとなあ」
友野「でも見ていて面白いよね。たとえばこういう碁↓」

第25期本因坊戦リーグ、黒・加藤正夫六段‐白・高川秀格二十二世本因坊(昭和45年3月11〜12日、コミ4目半)
93手完、黒番中押し勝ち(○24:L15)

山西「うわ、右下の白が全滅か」
友野「こういう碁を打ってみたいな」
野田「失敗して負けるのがオチだろ」
友野「そうそう、殺し屋になるつもりが、いつの間にか"殺され屋"になっちゃう」
野田「おいっ!!」

精魂の譜

精魂の譜

山西「なあところで、両三々と殺し屋って両立するのか?」
友野「「Go-Up!」だと両立する場合がある。幽玄では……どうだろう」
野田「ほう……」

*1:有水泰道『精魂の譜』(誠文堂新光社、2006年)167ページ。〔 〕はtmn440による。